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部屋の中は常に掃除をしているようで綺麗だった。
広いリビングルームには小さなソファと椅子と机。本棚には絵本や魔術関係の本が入っていた。大きな暖炉があり、真夏に関わらず最近使われた形跡がある。
リビングの向こうにはキッチンがあり、その脇に扉が三つある。
そしてそのリビングの机の上に、小さな竜がいた。
「……」
ビローはその竜と目が合った。
紅い皮膚に金色のたてがみを持つ竜である。フレイムドラゴンと呼ばれる、神の守護竜。
竜には守護竜と呼ばれる特別な存在がある。竜だけでなく、神に仕える魔獣、守護族がいるのだ。早い話が神の側近である。
そんなたいそうな竜の子供が、何故こんなところにいるのだろうか。
「…ミーナ、どうしたのよ、この子。あなたもとうとうたいそうな竜を頂けたの?」
レイがドラゴンを指差して言った。
「ん?ううん。前にタポルの実を採りに行ってたら怪我してたのを見つけて、手当てしてあげたら懐いちゃったの。おじいさまのところに返さないといけないんだろうけど…、はなれがたくなっちゃって」
ミーナは困ったように首を傾げてつぶやき、フレイムドラゴンのたてがみを優しく撫でてやる。
気持ち良さそうに目を細めるフレイムドラゴンを見つめて、ビローはとてもこいつが守護竜には見えないな、とこっそり思ったのだった。
「とりあえず、どうぞ座ってください」
ミーナはそう言って、ビローは背負っていた剣を脇に立て掛けて椅子に腰掛ける。
「レイは?」
「あたしは頼まれたものを持ってきただけだから。すぐ帰るわよ。はい」
レイは持ってきていた布袋から野菜を取り出し、ミーナに渡した。
「ありがと。そうだ、もう一つ頼まれてほしいんだけど」
「んー、なに?」
ミーナは机の上でビローをじっと見つめていたフレイムドラゴンを抱き上げ、レイに渡す。
「この子のお守り、してほしいの」
「……マジ?」
「うん。しばらくの間でいいから。このあとちょっと絵、描きたいから。絵描いてるときこの子がスケッチブックの端っこ噛むんだ」
レイはそんなミーナに苦笑いを送り、しかたないなー、と言って承諾した。
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