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茂みから顔を出すと、結構開けたところに出た。
そこは、ミーナがよくタポルの実を採りに行く場所の近くのようで、所々タポルの実がなっている木がある。そんな場所に、大きな赤いドラゴンが横たわっていた。
ぎゅー!とフレイは鳴き、そのドラゴンの元に駆け寄る。
短い芝生が生えたそこは、雨も降っていないのに一面に濡れていた。
ミーナはそのドラゴンに躊躇いもせずに近寄り、スカートの裾が濡れるのも気にせずにしゃがみ込む。
赤い大きな竜、フレイムドラゴンの成竜は、ミーナを見上げた。
茶色の輝く瞳は光りがないように見える。ミーナはドラゴンの首もとを撫でた。
「…ああ。女神殿…。ミーナ殿か…」
「はい。…イム、ですね?わたしのおじい様の守護竜の」
「…ああ。ブレイブ様に…このことを伝えてほしいのだ…。この世界は、歪んでいる。…戦が始まる、と…」
「……」
イムは苦しそうに咳き込み、小さく炎を吐く。
「…この山に囲まれた草原に…水族の魔物がきたのだ…。伝言を渡され、攻撃をくらってしまった。…水神は、何か企んでいる。…それが何かはわからぬが、よくないことであることは確かだ…。西と東の戦も、水神が関わっているのかもしれない…」
「…伝言、とは?」
「…『復讐だ。水と火はまた争うことになる。今の東と西のように』と、言っていた…」
ミーナは下唇を噛んだ。
「…復讐とはなんのことなのか、分かりません。このことは、おじい様と少し話し合う必要がありそうです。…それよりも、あなたの手当を」
「…女神殿。戦ってください…」
イムはミーナの言葉を遮るように呻く。茶色の瞳で彼女を見た。
「…戦うのは…嫌です…」
そう言ったミーナに、イムは頭突きをする。ミーナは倒れた。
イムは頭突きをしたと同時に、吐血してしまう。
「がほっ!…あなたは!たとえ半分の血しか通っていないとしても、火の神の孫娘!運命に逆らうことはできない!きれいごとでは済まされないのだぞ!戦うのだ!これは火族全てに関わることだ!火族の将来に関わることなのだ!戦うのだ!…がはっ!」
イムは力無く首を地面に横たえた。
「……」
ミーナは悲しげな表情でイムを見下ろす。
「…その子、頼みます…」
赤い大きな守護竜は、赤い大量の血を吐き出し、そのまま絶命してしまった。
「ぎゅー!」
フレイの悲痛な鳴き声が、草原に響き渡った。
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