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ビローとレイが朝食をとっているとき、ミーナはフレイ、そしてポーといた。小屋の外で、絵を描いていた。
ポーがポーズをとって静止し、ミーナがその向かい側に座っている。
「つらい…です」
「あとちょっと」
ミーナは微笑んで言った。
彼女の左手の中指に、昨日までなかった赤い石で作られた指輪が嵌められている。これは、ミーナの母の形見のものだ。彼女はこれをいつも小さな宝箱に入れている。
朝、『竜王の谷』へ行き自分の祖父である火の神、ブレイブに守護竜の死と水族の伝言を伝えた。
そして小屋に帰り、ふとその指輪が入った宝箱が目に入ったのだ。
その隣には、赤ん坊のミーナと両親が一緒に写っている写真が写真立てに入って置いてある。その棚の脇には、小振りの剣があった。
ミーナはほとんど顔も、声も覚えていない両親のことを思い出し、少しだけ泣いてしまった。そして、なにか肉親のものを身につけていたいと思い、一度もあけなかった赤い指輪を取り出して、指に嵌めたのだ。
イムが死に、悲しそうに鳴くフレイと自分が酷似して、自分の母親の死を知ったときと同じくらいに悲しくなった。
そして、彼女が言ったように、自分は戦うべきなのだろうと思った。ビローについていけば、わたしは自分のすべきことを見つけることが出来るかもしれない。
彼女は、そう思いはじめていた。
「…ミーナさま」
「…あ」
ミーナは顔を上げた。
さっきと同じポーズをとってくれているポーは、泣きそうな表情でミーナを見ている。尻尾がぴくぴくと動き、前足が震えていた。
「…ごめんね、考え事してた…」
楽にして、とミーナが言うと、ポーは前足を伸ばして大きく伸びをした。こういうところは大きくても猫である。
「集中…できないなあ…」
「…無理に描くことはないでしょう。フレイも、そう思いますよね?」
「…おもうよ」
ポーは尻尾をぱたぱたと動かし、ミーナに寄り添った。フレイもミーナの肩によじ登り、
「むりしちゃだめー」
そう言う。
「…うん」
ミーナは小さく頷き、それからなんとなしにスケッチブックの後ろのページを見た。
国境の村の絵。タポルの実のデッサン。レイの似顔絵。イムの絵。
たくさんの絵が彼女のスケッチブックの中にはあった。
ミーナが絵を描き始めたのは、アグニが死んだことを知ってしばらく経ってからのことだ。
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