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「…あれほど戦は嫌だと言っていたのに、どうしてだ?」
「イムのために。…だけとは言えませんけど…」
ミーナは小さく微笑み、立ち上がる。
「ちょっと、来て下さい」
ビローを自分の部屋に招き入れた。
ミーナの部屋にはあまり物がなかった。机と椅子。小さな棚。たんす。ベッド。本棚。それだけだ。
小さな棚の上に、写真立てがあった。赤ん坊のミーナと、彼女を抱く優しそうな女性と幸せそうに微笑む男性の写真。その棚の脇に、細身の剣が立て掛けてある。
「…ご両親か?」
ビローは写真を見ながらそう尋ねた。
「ええ」
「優しそうな人達だな」
ビローが目を細めてつぶやくと、ええ、とミーナは寂しそうに微笑む。
「そうだったのかもしれません。わたしには、両親と共に過ごした記憶は殆どないんです。…母のことならちょっとだけ覚えてるけど」
「……」
ビローは黙って写真を見つめた。それから、写真の男性を指差し、彼女に尋ねる。
「…ん?ミーナ、きみの父親の名前、もしかしてビハマルじゃないか?」
ビローのその言葉にミーナは目を丸くした。
「…はい。そうですけど…」
「…やっぱり。ビハマル隊長は、俺もよく知っている。というか、彼は軍隊では有名な人物だった」
「そうなんですか…。父は、東の剣士でしたが、母と出会って戦場から退くことを決めたそうです。でも、国がそれを認めませんでした。火の女神とは敵同士だから。でも、父は母のために、国境の村に母と暮らし始めたそうです」
「素晴らしい人だな」
ビローはつぶやき、ふと棚に立て掛けてある剣を見た。
「これは…?」
「これは、父の形見です。切れ味は余りよくないし、細身で軽いから攻撃には敵してませんが、お守りにって、父がわたしにくれたんです。わたしはそのとき赤ちゃんだったから、覚えてないけど」
ミーナは苦笑して剣を掴み、鞘を払って刃を見せる。
あまり尖っていない刃だ。しかし、丈夫そうで、ちょっとのことでは折れなさそうだった。柄の先端には金色の飾りがついている。刃の唾近くに、丸い穴が開いていた。
「わたしの両親は、戦争で亡くなりました。もう、戦争で人が死ぬのは嫌なんです。イムに言われたから、とかじゃないんです。わたしは、もう誰にも死んでほしくないんです」
ミーナはビローに振り返った。
「お願いします。わたしも連れていって下さい」
彼女のその目は、決意に燃えた炎を宿していた。
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