第一章:四つの国の境にある村

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部屋を出るとレイが一冊の童話集を読んでいた。 「おまたせ」 「おー!カッコイイわね!」 ミーナが言うとレイは顔を上げて本を閉じる。 「レイ、何読んでたの?」 ミーナはレイが読んでいた本に興味を示して聞いた。レイは嬉しそうに本をミーナに見せる。 レイが読んでいたページには『花の神と太陽と月』という題名が書かれていた。 「これ、懐かしいでしょ?あたしたちが小さかった頃よく読んでた本。本棚の中に難しい本と一緒になって入ってたわよ」 「これかあ。飽きもせず毎日二人で読んでたよね」 ミーナはその本をレイから受け取って開く。 話の冒頭はこう書かれていた。 『昔、最初の神が作った最初の人間は、花の神と結婚しました。二人はとても幸せに暮らしていましたが、何年もたてば人間は歳老いてゆくもの。いつか花の神の夫は死んでしまい、花の神はいつまでもいつまでも悲しんでいました―――』 自然の神とも呼ばれていたらしい花の神は、夫を亡くして何百年も悲しんでいたらしい。 しかしなぜ彼女はいつまでも悲しんでいたのか。 続きにはこう書かれていた。 『―――最初の神は花の神に何故いつまでも悲しむのかと尋ねました。すると彼女はこう言ったのです。 "私の夫は今日死んだ。だから私は悲しいのです" そこで最初の神は暁の神モルペウス、昼の神ヘメラ、夜の神ニュクス、宵の神ヒュプノスの四人の神を作りました。彼らは左に廻り、暁、昼、夜、宵を繰り返します。 すると今日は昨日になって、夫が死んだことも昨日のことになりました。花の神の悲しみは、日が代わるごとに和らいでいったのです。 しかし彼女は思いました。 悲しみは和らいでも、夫との思い出は忘れたくないと。だからいつまでも忘れないようにお墓をつくり、夫との大切な思い出を今日も思い出しているのでした―――』 この話に出てくる四人の神は太陽と月を表していると言われる。まさしく題名通りのお話だ。"一日"を作り上げるための神。"一日"が最初にできたという、なかなか深い話である。 ミーナは本を閉じ、懐かしいね、とつぶやく。 「ホントにそこに出てくる四人の神はいるのかしら?」 「さあ?」 レイの言葉にミーナは首を傾げてみせ、ビローさんたちが待ってるから行こうか、と言った。 ミーナの家の机に残された童話本が、あるページに開いていた。 そこに書いてあった題名は『最初の神と二振りの剣』。
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