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部屋を出るとレイが一冊の童話集を読んでいた。
「おまたせ」
「おー!カッコイイわね!」
ミーナが言うとレイは顔を上げて本を閉じる。
「レイ、何読んでたの?」
ミーナはレイが読んでいた本に興味を示して聞いた。レイは嬉しそうに本をミーナに見せる。
レイが読んでいたページには『花の神と太陽と月』という題名が書かれていた。
「これ、懐かしいでしょ?あたしたちが小さかった頃よく読んでた本。本棚の中に難しい本と一緒になって入ってたわよ」
「これかあ。飽きもせず毎日二人で読んでたよね」
ミーナはその本をレイから受け取って開く。
話の冒頭はこう書かれていた。
『昔、最初の神が作った最初の人間は、花の神と結婚しました。二人はとても幸せに暮らしていましたが、何年もたてば人間は歳老いてゆくもの。いつか花の神の夫は死んでしまい、花の神はいつまでもいつまでも悲しんでいました―――』
自然の神とも呼ばれていたらしい花の神は、夫を亡くして何百年も悲しんでいたらしい。
しかしなぜ彼女はいつまでも悲しんでいたのか。
続きにはこう書かれていた。
『―――最初の神は花の神に何故いつまでも悲しむのかと尋ねました。すると彼女はこう言ったのです。
"私の夫は今日死んだ。だから私は悲しいのです"
そこで最初の神は暁の神モルペウス、昼の神ヘメラ、夜の神ニュクス、宵の神ヒュプノスの四人の神を作りました。彼らは左に廻り、暁、昼、夜、宵を繰り返します。
すると今日は昨日になって、夫が死んだことも昨日のことになりました。花の神の悲しみは、日が代わるごとに和らいでいったのです。
しかし彼女は思いました。
悲しみは和らいでも、夫との思い出は忘れたくないと。だからいつまでも忘れないようにお墓をつくり、夫との大切な思い出を今日も思い出しているのでした―――』
この話に出てくる四人の神は太陽と月を表していると言われる。まさしく題名通りのお話だ。"一日"を作り上げるための神。"一日"が最初にできたという、なかなか深い話である。
ミーナは本を閉じ、懐かしいね、とつぶやく。
「ホントにそこに出てくる四人の神はいるのかしら?」
「さあ?」
レイの言葉にミーナは首を傾げてみせ、ビローさんたちが待ってるから行こうか、と言った。
ミーナの家の机に残された童話本が、あるページに開いていた。
そこに書いてあった題名は『最初の神と二振りの剣』。
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