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ビローは歩きながらミーナを見た。
「なあ」
「はい?」
ミーナは振り返り、ビローを見て聞き返す。
今、彼らは道なき道を歩いていた。茂みをかきわけて前に進んでゆく。
「…道合ってるのか?」
「ええ」
ビローの不安げな声に、ミーナは微笑んで返した。
「…道じゃないぞ」
「"獣道"ってやつです。何回か港まで行ったことあるんですよ。ポーとか他の魔獣が使ってるみたいです。そういえば、レイとも行きました。そのときははぐれ獣追いかけてたんだっけ」
ミーナはビローの微妙な顔を見て楽しそうに笑うと前を指差す。
「ほら、もう少しです。潮の香りがしてきましたよ」
彼女の言葉にビローは目一杯息を吸い込んだ。微かにだが潮の香りがするような気がするが。
「…半日でつくのか」
「普通の道を通ったら丸一日かかるみたいですけど」
「…それでも一日なのか」
呻くように言うビローを不思議そうに見上げ、フレイと顔を見合わせた。
「…もしかしてビローさん、国境の村につくまで何日もかかったとか…?」
ミーナが遠慮気味に聞くと、さあ行こうもうすぐだあとちょっとだ、と早口で言ってずんずん進んでいってしまう。
ミーナはそんな彼を追いかけながら、楽しそうに微笑む。それはやや苦笑がまざっているようにも見える微笑みだった。
肩に乗っているフレイがミーナに耳打ちする。
「ビロー、迷子になったのかな?」
フレイの言葉にミーナは微笑みを崩さぬまま人差し指を唇の前にあてた。
だんだんと潮の香りが強くなり、突然開けたところに出た。そこは小さな造船所だった。ミーナが港といっていたところ。
ビローは前を見つめ、つぶやいた。
「…船、丁度きたな」
「ホントですね」
ミーナも隣にならんで頷く。
海の上に、大型の貿易船があった。
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