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真夏の空は雲ひとつない晴天だった。背の高い草々が太陽に向かって伸び、濃い緑へと色を変える。濃緑の草原は、延々と続いていた。
その緑の海の真ん中に、一人の青年がいた。
背の高い青年だ。クセのある黒い髪に同じく黒の瞳を持っている。青いセーターの上に、鮮やかな青の革鎧を身につけ、背中には大きな剣を背負っていた。
彼の左胸にある胸当てには、西の軍の象徴である『ドラグーンの翼』が描かれている。
「国境の村まで、あと少しか…」
その青年、ビロー・ブレインは唸るようにつぶやいた。
この世界、通称"神界イデアーティア"は、大きく分けて四つの国に分かれている。
西の大国ウエティア、東の大国イスティア、北の大国ノーティア。そして、南の大国サウティア。
今、西と東は一触即発状態だ。"あるもの"を廻り、戦争が始まろうとしていた。
その"あるもの"とは、伝説級の代物である。
神の力を借りて、初めて力を得ることのできる剣だ。
その名も"魔王の剣"。
西ウエティアは腕の立つ剣士を派遣し、"魔王の剣"の調査に向かわせている。ビローはその一人であった。
神とは、世界中にいる魔物の主のことだ。
それらには大量の種族があるが、中でも超絶な力を持っている神が五種族いる。
水、大地、雷、炎、氷だ。
その中には今の西と東のように古くからいがみ合っている種族がある。
それは水と炎。
相性が合わないのか、そこの辺りは定かではないが、古によりいがみ合っていた。以前までは滅ぼしあうまでにあったという。
今ではそんなことは無いようだが、やはりお互い相容れないところがあるらしい。
「…しかし、こんなところに本当に伝説の剣の情報を持っている人物なんているのか?」
ビローは先を睨みつけながら一人ごちた。
彼は幼い頃から剣の修業をし、王のために働いている。そして伝説の剣の話が出たとき、率先して情報収集役を買って出たのである。
やはり男としては、そういう伝説級の代物に興味がある。きっと豪華でそれでいて上品な剣に違いない。自分の剣もかなりの業物であるが、それ以上、むしろ全く比べ物にはならないであろう。
神の力を得て出来上がる剣といわれるほどだ。強い魔力もあるに違いない。
胸が躍る。
今目指す村で、できるだけ多くの情報がほしい。
ビローはしばし思案していたが、よし、と一人小さく気合を入れると、再び草原を歩き出した。
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