第一章:四つの国の境にある村

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西ウエティアは、夏でもそれほど暑くはない。むしろ涼しいほうで、なかなか快適といえる。機械も魔術も発達して、今目指している国境の村や他の小さな村や町との貿易をしているほどの発展国だ。 それに比べて、この"国境の森"は暑かった。木々が覆い茂り、たくさんの日陰を作っているにも関わらず、陽射しは強烈だ。 はやくもバテはじめたビローは額の汗を拭いながら、国境の村を目指す。 しかし、国境の村は見当たらなかった。ビローが港から歩き出してもう三日は経っている。それなのに、村らしいところさえ見つからない。道を間違えたか?とビローは内心焦り、地図を片手に後ろ頭を乱暴に掻いた。 どこに歩いても木々が邪魔して視界を遮り、さらにわからなくする。 どれくらい歩いただろうか。ざくざくとブーツで草を踏み潰しながら歩くと、ふと見晴らしのいい高台に出た。 「道、間違えたな…」 そんなつぶやきは、本人以外誰も聞いていない。 ビローは高台から見える大規模な村を覗き込んで、がっくりとうなだれた。 国境の村だ。 絹と、毛皮と、果物がたくさん採れる、そしてこの世界の中心部にある村。国境、つまりは四つの大国に面している村。 この高台からでは降りることが出来なさそうである。いったん引き返してまた茂みの中を掻き分けながら歩かなければならないだろう。 頑張れば降りれるかもしれないが、命の保障はないに等しい。 さすがのビローもここから降りる度胸はないし、二十年という短い生涯をここで終わらせる気もあるまい。 ビローは踵を返して茂みの中に入っていった。 「なんで俺がこんな目に…」 そんなつぶやきと一緒に。 しばらくしてやっと村周辺に近づいたビローは、茂みから顔を出そうとして、すぐに引っ込めた。 「…獣の気配か…」 彼は小さくつぶやくと、剣に手を添えて息を潜める。気配を感じ取るために神経を集中させた。 しばらくして、二つの気配があることに気付く。一つは獣、もう一つは人のものだ。 「まずいぞ…」 ビローはつぶやいて、獣の気配を追って茂みから飛び出す。
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