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女性はかごいっぱいにタポルの実を入れて、"国境の森"を歩いていた。
タポルの実とは、国境の村で多く採れる色鮮やかな木の実だ。赤、青、緑、黄色などの色で実るため、実はデザートに、皮は装飾品になる。
「こんなものかな」
女性はつぶやき、嬉しそうに微笑んだ。
その背後から、レッドキャットと呼ばれる大型の猫が飛び掛かってきていた。
「あぶない!」
ビローは叫び、茂みから飛び出して背中の大剣を抜いて構えた。
女性はえ、と小さく声を出し、ビローを見つめた。かごを胸の前に抱き抱え、レッドキャットと見知らぬ男性の対峙に戸惑う。
レッドキャットは、ビローを睨み付けると鼻の頭にしわを寄せて唸った。ビローは物怖じせず巨大な猫を見据える。その真ん中で女性はかごを抱えたまま固まっていた。
レッドキャットは女性を一瞥すると、踵を返して茂みの中に入ってしまった。ビローは大きく息を吐き、剣先を地面に付ける。
「大丈夫か?レッドキャットに襲われそうだったが」
ビローは剣を鞘に収め、女性に近づいた。
「…えと、あの…ありがとうって、いうべきかな…?…あの子、わたしを襲おうとしたわけじゃないんです」
話し掛けられた女性は、困ったように首を傾げてそうつぶやく。
「…は?」
ビローは思わず間の抜けた声を出した。
今現に飛び掛かってきていたし、殺気すら感じていたはずだ。
彼の考えをよそに、女性は困ったように微笑み、
「あの子、よくじゃれてくるんですよ。国境の村周辺の火族の獣は、村人には襲ってきません。多分、貴方のにおいでわたしを守ってくれようとしたのかもしれません」
そうビローに言った。
ビローはなんとも微妙な表情で、そうか、とつぶやく。
しかし、村人は襲わないとは、火神のおかげだろうか。国境の村は火の神に守られていると噂に聞いたことがあるが、ここまでとは。神は人間を見下し、蔑み、殺す。そんなイメージがあるが、意外とそうではないのかもしれない。
ビローは後ろ頭を掻きながら女性を見下ろした。
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