~序章~

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 その仮説が実に興味深かった。  多少宗教的な考え方であるとは思ったが、かなり斬新な発想であり、彼も自分の中の世界が広がっていくのを感じた。  あんな感覚は忘れて久しい。  新しい事柄に触れ、未知の物に遭遇する楽しい新鮮さ。    作り話なのに、自然と笑みがこぼれた程だ。  先日から一夜あけたというのにその事を考えるとまだ胸が高鳴る。  この仮説を自分なりの解釈も付け加え、もっと現実味深くリアルに近づけたい…そう思った私は昨晩から研究室に泊まりこんだ。  (ーしかしアイツの作り話もつくづく俺を楽しませてくれるな…)  軽く笑みを浮かべ、良介は研究室の扉を開けた。  昨晩の事を思い、窓の向こうを見ながら誰もいない廊下を進む。  先日、同窓会での席で友人がある話題を上げた。  数日前にテレビでやっていた内容で、人間の生まれ変わりについてを芸能人やアイドルが霊能者をゲストに語り合うといった番組だったらしい。    途中、前世の記憶が残っている人物がテレビに出たらしく、その不思議について出演者たちが議論を繰り広げる。  内容はこの手の話ではよく聞いたことがある感じでー  前世での強い想いが色濃く残り肉体が滅んでも次の人生で心の奥底に刻まれたまま記憶に残っているというオカルト的意見から、たまたまどこかで取り入れた知識がいつの間にか自分の知識に混ざり込むといった科学的見解まで様々。  自分はどちらかと言えば後者の方が素直に納得できる。  生まれ変わりが無いとまでは断言しないが、前世の記憶などというものは、おそらく十人に九人が何かしらの間違いか思い込みであろう。  もちろん、「自分は‥の生まれ変わりだ」と言っている人全てが間違っているとは思わない。  全て間違っているとすれば、どうやっても知りようのない生まれ変わる前の過去の人物の事をどの様にして知ったのかが理解出来ない。  無論、テレビのヤラセなど無いことを前提に考えてだが…  突然目の前に柱が現れた。考えながら歩いているうち、いつの間にか廊下のつきあたりにまで来ていたらしい。  方向を変え、つきあたりを右手に回りこむとソコにはすぐジュースの自動販売機がある。    ポケットから財布を取り出し、ブラックのホットコーヒーを買う。    手近にある椅子に座りこみ、コーヒーを一口すすった。深い香りが鼻腔をぬけて体を駆け巡っていく。  
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