~序章~

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 (さて…この仮説をどうやって昇華させていくか…)  ただの作り話として産み出された仮説。だがこの仮説を聞いた時、自分は新鮮さと共に何かしら妙な違和感を感じていた。  それが一体どういう事なのかは分からなかったが…  不思議と異様に心の奥に引っかかる感じが拭えない…  違和感の原因は一日考えた今も分からず、心の中のしこりは以前として無作法に頭の中心に居座っていた。  良介には仮説をまるで本当の事の様に裏付けていく趣味が ある。  それは、先ほど紹介にあがった昔馴染みの友人が多いに関係している。  この友人とは中学からの数少ない仲のいい友人の一人で、想像力がとても豊かな友人達への心配りもいい楽しい奴だ。  その為、サービス精神も旺盛な彼は、持ち前の想像力を駆使して即興の作り話を友人によく披露する。  一見変な行動にも思えるかもしれないが、なかなかそいつの話は友人間で受けがいい。  かくいう自分もその一人で付き合いも長い事もあり、いつ頃からだったかはよく覚えていないが彼が作り話を作る度に意見を言う様になっていた。  話の具合によっては時には反対意見だけではなく肯定意見や、なぜそういう事になるかを話し合う事もあった。  いつしか互いに何だかそれが当たり前に思える様になり互いの意見を取り込み、相乗効果とでも言おうか話は更に面白みを増した。  その友人もそれまで一人で作り上げてきた話に意見された事で最初は多少は戸惑ったが、次第にそれにも馴れてきて自然と議論を交わしあうぐらいになった。  少々、理解がしずらいかもしれないが作り話というものは元来作り始めてからどこかで話が行き詰まりでもしないかぎりその話を生み出したものたちだけが育てていく集中作業だ。  つまりどういう事かといえば、彼の様なある意味天才的発想力の持ち主なら話を完全に頭のなかで整理する事が出来、話の展開には困る事はあまり無い。様は他の誰の手助けも無しに複雑な仮説を次々に生み出してしまうという事。  実際、彼の作り話が途切れてチグハグになった事は記憶している限りごく僅かしか無い。  持って生まれた才能なのだろう。記憶上、例えどのような分野であれここまで明確に頭の中で世界を形づけすんなりと組み上げていく人物を自分は他には知らない。
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