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街道沿いの雑貨屋から、店の格好をした小太りの親父が出てきた。
すっかり薄くなった頭からは引っ切り無しに汗が吹き出している。
「こんだけ新陳代謝が活発なのに、どうして髪は生えないのかねぇ」とは、毎年この季節になると聞けるこの親父の愚痴だった。
肩にかけた手ぬぐいで汗を拭い、外の熱気を辛そうに確認する。
店の中は通気が悪く、まるで蒸し風呂のようになっていたが、なるほどこれゃあ外よりマシだと、親父は納得して店内に引き返すことを決めた。
ちらりと通りを見やると、向こうから走ってくる子供の姿が見えた。
よく知った顔だった。
「こら坊主!くそ暑いのに走り回るな!見てるだけで暑くなるわ」
大声を出した反動で、額から汗が滴り落ちる。
子供は親父の前を駆け抜ける際に、手に持った花を軽く持ち上げて挨拶代わりにした。
子供が通り過ぎて掻き回した空気が、むわりと親父にまとわりついた。
「うわあ。暑い、暑い」
親父は店の中に避難しながら、あの坊主の様子がいつもと違ったな、と少し気になっていた。
妙に機嫌のいい顔をしていた。花なんか持って。
店の奥に戻ると、女房がだらしの無い格好で椅子に座っていた。
大股を広げて、服の裾をめくってうちわがわりにしている。
まったく。
こいつも結婚した時はそりゃあもう可愛いなんてもんじゃなかったんだが、と親父は古き良き時代を回想した。
「あ、そうか」
女房の花嫁姿を思い出して気がついた。
「今日は坊主の姉貴の結婚式じゃねーか」
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