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「深雪」
キッチンから聞こえるあの声。
「姉ちゃん!」
これまでの緊張が一瞬揺らいだ瞬間だった。つばきは、頷いて微笑む。その隣ではお茶の準備をする母親。
「あっ…」
雅はつばきを見て、小さく声を出した。それから軽く頭を下げ、再び父親のほうへ向き直った。
―姉ちゃんがいて、よかった…
父親は新聞をたたみ、私たちを見据えた。
「明日、見合いと聞いていたが?」
低く静かな父親の言葉は、いつもより威圧感がある。
「その件ですが」
雅は立ったまま返事をする。
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