10707人が本棚に入れています
本棚に追加
/349ページ
つばきは黙ったまま、玄関へ静かに訪問者の確認へと向かう。
再び沈黙という、はりつめた空気が支配する。
しかしそれは、あっけなくも、あっさりと崩される。
「母さん、三井さんが…」
つばきの声に、一同がつばきのほうを振り返った。
つばきの後ろには、スーツ姿の三井が立っていた。
「突然お邪魔して申し訳ありません」
まさに腰が直角に曲がるほど、頭を下げた三井。
つばきが一番落ち着いており、三井を中へと手で示し、誘導する。
雅の口は半端に開いたまま、私はどんな顔をしているのか、わからない。
「直入に申し上げますと、今回のお見合いの話を取り消していただきたく、参った次第であります」
雅の隣まできた三井は、私の両親へ、そう伝えた。
「高いところからで申し訳ないのですが、私には大切な女性がいます」
続ける三井の表情は、真剣だった。
.
最初のコメントを投稿しよう!