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「別にいいけど」
溜め息と共に、彼女は言った。三文芝居の共犯関係になると、確かに口にした。
それはただ、ここから逃げ出したいが為に言っただけの言葉だったかも知れない。
いや、むしろその可能性の方が高かっただろう。
だけど。喩えそうだとしても。そうだったとしても。
確かに彼女は――肯定した。
こんな俺の馬鹿馬鹿しいにも程がある戯言を、愚かしいにも限りがあるような狂言を、受け入れてくれた。
俺を――肯定してくれた。
泣きたいほどの、信じもしない神に感謝したい程の嬉しさ。それしかなかった。
「それで、憐れな人質はどうすればいいわけ?誘拐犯さん?」
彼女はニィ、と唇の端を歪める、ともすれば冷笑ともとれる悪魔的な笑みを作る。
しかしそれは彼女が初めて見せる種類の表情で、それもまた、この関係故に見せられた彼女の素顔であるのに変わりはない。
「とりあえず……監禁場所の移動といきますか」
言いながら手を伸ばし、彼女の手首を戒めていた縄をほどこうとする。
「ねえ薺」
それを甘んじて受け入れながら、彼女が問う。
「わたしが行くって言わなかったら、あんたどうしたの?」
それは、仮定論があまり好きではない彼女にしては珍しい種類の問い。
暫し思考を巡らせて、しかしそれほど選択肢はなく。
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