1章:出会い

2/9
前へ
/98ページ
次へ
「ち、遅刻だぁ~!」  トーストを口にくわえたまま家を飛び出した、典型的な遅刻少年の名前は、間森悠紀(まもりゆうき)。  悠紀は、輝かしい高校生活の初日、入学式に遅刻しようとしている。  桜の開花は毎年早くなってきているが、今年は例年よりも遅れていて、いまの時期はちょうど満開のピークの頃だ。  その桜並木の道を必死で駆けていく悠紀。その彼の前には同じように息を切らせて走る少女の姿があった。 「あ…、あの子も遅刻かな?」  悠紀が少女を見ると、彼女もトーストを口にくわえていて、悠紀はなんだか少しだけ恥ずかしくなった。  悠紀がスピードを上げて、少女を追い抜こうとしたときだった。 「きゃッ!」  少女が何もない所で転びそうになった。 「危ないっ!」  悠紀は咄嗟に少女を助けようとして、彼女を抱き抱えたまま、冷たく固いアスファルトの上に倒れ込んだ。
/98ページ

最初のコメントを投稿しよう!

83人が本棚に入れています
本棚に追加