お客様 私はあなたが大嫌いです

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「ごめんなさい。これじゃ代わりになりませんか?」 あたしは自分がつけていたネックレスを外しチェーンの部分を出した。 「へ?いいの!?」 「大切なものだったのに ちぎっちゃってすいません」 女物のネックレスだからそのプレートには少し不釣り合いな気がしたけれど男は嬉しそうにチェーンにプレートを通し首につけようとしている。 「あれ?つけれねぇ…」 首の後ろでうまく金具がつけれないでいる。 あたしはそれを一切無視して品出しへと向かった。 なんでわざわざ奥から商品引っ張り出すんだよ、と思いながら出してあった商品を前へつめて新しい商品を奥へと入れる。 単純作業が嫌いじゃないあたしは慣れた手付きで仕事をこなしていく。 「つけて」 棚を整理しているとあたしに背を向けてさっきの男がすぐ横に立っている。 こいつ 図々しいな。 「…すいません もう少し低くしてもらえますか?」 この人の肩よりも低いあたしは見上げている状態だった。 「あぁ!ごめん!!」 少し膝を曲げてくれればいいだけなのに、男はしゃがみこんだ。 極端だし。 襟足にもきれいに金のメッシュが入っていて、トップはワックスでセットしてある。チェーンを預かった時に触れた指が、なんだかうまく動いてくれない。 「…できました」 その声に立ち上がるとゆうにあたしの背を抜かして、 「柚木ちゃん サンキュー」 大きな手であたしの頭をくしゃくしゃっと撫でた。
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