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「触らないでください」
少し頬が紅くなった気がしてあたしはその手を払いカウンターへと戻った。
すぐに男の携帯からトランスが店内に鳴り響き、男は大きな声で話しながらコンビニを出て行く。
楽しそうに笑いながら襟足を手ですいて、まだ明るいネオン街の方へと続く道を向かう姿はあっという間に見えなくなった。
深夜のコンビニには、ぽつりぽつりとではあるがくたびれた表情の人や夜を待ちわびていた客が途絶えることはない。
いつもは何を考えるのもめんどくさいのに、《ゼン アユミ》の文字が何度も頭をよぎって、気付けばもうバイトあがりの時間になっていた。
あんな客、めずらしいわけじゃない。
店長に挨拶を済ませてロッカーを開けるとイルミネーションが滲むようにカバンの中で点滅していた。
【着信 陽菜】
肩と耳で携帯を器用に挟みながら帰る支度を進める。
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