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『もしもし朔夜ちゃん!?』
後ろからは人の笑い声や話し声が聞こえる。
「どうしたの?」
これも、めずらしいわけじゃない。
『今日ね遅くなるから 鍵ポストに入れといてくれないかなぁ?』
いつもと変わらない、日常。
「わかった。帰り気を付けなよ。」
『朔夜ちゃんありがと~ 大好き!!!』
相手が切るまで電話を切らない陽菜に合わせて、あたしはすぐに携帯を閉じた。
あたしの家には《陽菜は朔夜より早く帰宅すること》っていう決まりがある。
あたしはバイトが遅いから合鍵を持っている。割と昔からあたしは自由に過ごしてて帰りが遅くても何も言われない。
両親も連絡さえ入れれば必要以上にとやかく言わないし。
まぁ、あたしは見放されてるって感じ。
また考えるのがめんどくさくなってきて、いらないもの全部を封印するようにロッカーを閉じた。
春とはいえまだ肌寒い夜に肩をすくめて、社員用出入り口の扉を開ける。
「また 雨降りそう。」
真っ暗なカーテンを敷いたような空を見上げたら星なんて1つ見えない。
あの男が歩いていった道の先だけは、いろんな色の光が灯り、あの空にまで届きそうだった。
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