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「別に聞いてないし 興味ありません」
「…本当に俺のこと知らないの?」
「知りません」
あたしは他に落とされたものを手当たり次第全部カバンにつめこみ早足で歩き出した。
「ちょ…柚木ちゃん!」
「ついてこないで」
「ねぇ!柚木ちゃんてば!」
男がまたあたしの腕を掴んだ。痛くはないけれど、あたしの足はぴたりと止まる。
「…あの、あたしは陽菜じゃありません。顔が似てたらどっちでもいいんですか?」
元はこの男もあたしと陽菜を勘違いして話かけてきた。
みんな、陽菜と比べなきゃあたしの存在を見いださない。
うざい うざい うざい
あたしは振り返ってコンビニの逆光で影になった男の顔を睨み付け、捕まれた手を振り払った。
「朔夜ちゃ…ん」
「その名前も嫌いだから呼ばないで…あなたも大嫌い」
そう言い残して、降りだしそうな雨と掴まれた腕の感覚から逃げるように、あたしは走って家に向かった。
《家に帰ったらポストに合鍵》それだけを頭の中で繰り返してとにかく走った。
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