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顔をあげると、あの哉崎 全が教室の入り口に立って教室中を見回していた。
「朔夜ちゃ…哉崎先輩と知り合い?」
すぐさま陽菜があたしの側に駆け寄ってくる。
あれだけ賑やかだった教室は突然の来客に一瞬静まり返り、友人と目を合わせ声にならない言葉を交わす。
先輩…?
それよりも、なんで同じ学校に…?
入口のそばにいたクラスの誰かがあたしの方を指差すと哉崎 全は真っ直ぐあたしの目の前まで歩いてくる。
「柚木朔夜、やっと見つけた~!!コレ!忘れ物~」
そう言ってすっと机に置かれたのはあたしの学生証。
哉崎 全はあたしの前の椅子に背もたれを正面にして座り向かい合う状態になった。
「何組か分かんねぇから全クラス回ったし」
「…クラスここに書いてありますけど」
「嘘だろ!?…うわ~マジだ~超体力損してんじゃん~」
そう言ってうなだれるようにあたしの机に伏せた。
バカ丸出しのリアクションになぜか張りつめていたものが緩む。
「全クラスこんな風に回ってきたんですか?」
「だって休み時間10分しかねぇしさ、これが一番早いだろ?」
あなたに代名詞をつけるなら《バカ》?
「なぁ、俺のこと嫌いオーラがバンバンくるんですけど?」
「はい」
大嫌いだよ。あんたなんか。
「即答!?きっつー!!じゃあさまたコンビニ行っていい?」
「何でそうなるんですか…意味分かりません。勝手にしてください」
哉崎 全は子どもみたいな笑顔を残して教室を出て行った。
顔には出さなかったけど、くだらなさすぎてなんだか怒ってたことがどうでもよく思えた。
ふと渡された学生証を見れば無表情のあたしの写真が少し笑って見えた気がした。
目の前の空間を見れば、まだ哉崎全がそこにいるような気がして、なぜかまともに前を向けなかった。
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