お客様 私は商品ではありません

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AM0:52 深い藍色のくすんだ空と消えない音と光。 きらびやかな箱から続くなだらかな坂道を下り、終電間際の電車が行き交う鉄橋の下をくぐった先にある一件のコンビニエンスストア。 消えない灯りを灯し続ける小さな箱にはぽつりぽつりと人が集まってくる。 あたしは、たくさんの光と闇を、表と裏をここで見ることになる。 「いらっしゃいませ こんばんわ」 金髪にスウェットに健康サンダルの高校生らしき男女が5~6人コンビニへ入ってきた。 ワンフロアに響き渡るまだ幼い笑い声が鬱陶しい。 「すんませーん これ温めてくださ~い!!」 カウンターに立つあたしの前に差し出された一冊の雑誌。 一瞬目を落として無表情のまま顔をあげると、嫌味に満ちた目付きであたしの反応を期待するさっきの人たちがいた。 「お客様 アダルト雑誌は温めることが出来ませんが?」 「お姉さんノリ悪ぃ!!」 もう、イラつくことさえめんどくさい。 こんな客の対応にも慣れたあたしはすぐにバーコードを読み込みレジのパネルに金額を映した。 早くバイトの時間終わんないかな…。 あたし 柚木 朔夜(ユズキサクヤ)。高校2年生のコンビニ店員。趣味特技なし。モットーは【必要最低限】 地元のコンビニでバイト始めて今日で一年。 一周年なのに雨降ってきた… 最悪。帰るのだるい。 何をするでもなくいつもと何一つ変わらない店内を見渡しながらカウンターに立っていた。 自動ドアが開きアスファルトを叩きつける雨音が一瞬強く耳に届く。 「雨とかマジうぜぇし、髪崩れんじゃん!!」 あ~ぁ。またこのパターンの客だよ。 茶髪に金のメッシュが入った髪型。見るからにチャラそうな格好の男がびしょ濡れでコンビニに入ってきた。
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