幸せの秘密の相手。

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『どうしたの?』 『これなにー』宮本林檎4歳。最近すごい好奇心を持っている。右手にDVDを持っていた。『見たいよ。気になるよー』 林檎は甘えた声で言ってきた。あたしはしゃがんで、林檎に視線を合わせた。 『これはね、お父さんとお母さんの結婚式が入ってるのよ』 『けっこんしき……』 大きい目を丸くして傾げた。 『うん。もう少し大きくなってから、見るの。あたしも…………そうだったから。我慢よ我慢っ』 笑顔で言うと、林檎は頷いた。 『さあ、そろそろお父さん帰ってくるからテレビでも見てて。お母さんご飯作ってるから』 DVDを手に持ち長く返事をして、林檎はテレビの前に走っていった。 包丁を持つ。お母さんと同じことを林檎にも言った。半分、無意識。気付いたら脳裏に言うことが浮かんでしまっていた。 『ただいまー』 しばらくして、扉の開く音がした。楓さんが帰ってきたようだ。ちょうど完成した料理の火を止めて、あたしも行くと、林檎を抱き抱えた楓さんがリビングに入ってきた。 『おかえりなさい。疲れたでしょう?』 『ああ。でも林檎が迎えてくれたからいいや』 楓さんは、二日間出張だった。林檎に会いたくて仕方なかったようだ。 『ご飯出来てますよ』 『お、食べる食べるー』 『今日ね、シチューだよ!あたし大好きい』 林檎を抱き抱えたまま、鞄を下ろし椅子に座った。 あたしは座らずに食器を手に取ると、後ろから『お母さんも早く座ってー!』元気な声がした。『ご飯なきゃ食べれないでしょう。今準備するから』返事をして、鍋を見つめた。 お腹に手をやって、これからもこの生活が平穏に続いていきますように、と願う。――――この新しい家族も含めて。 あたしは鍋にあったおたまで、シチューを掬った。楓さんは大盛り、林檎は一杯位で。 終。
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