第1章の3

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「資本家は見事に落選したね」 「え?ああ…そう」 意外な結果だった。 私はうっかり、その怪しい男がペテン師か何かで、資本家に聖水と称した謎の小瓶を渡した後、何か裏の手を使って、見事に当選させて、わんさか金を巻き上げたのかと思っていた。 「勿論、資本家は男に文句を言いに行った。 “話が違うじゃないか。あんたはこの水を1日一滴ずつ飲んでさえいれば、必ず選挙に当選すると言ったじゃないか”と。 そしたら男は何て言ったと思う? “私はそんなことは言っていません”と真っ向から否定した。 そして男はこう言ったんだ。 “私はあなたが、本当に政治の道を志す以上、必ず当選を約束すると言ったんです。 あなたが純粋に、地位や名誉など一切関係なく、政治家を志していたなら、あなたは本当に当選していたでしょう。 私はあなたを信用したのに、あなたはそういう人間ではなかった。 何の為に私の元へ来てくれたのですか?残念でなりません。 信じた私が馬鹿でした”だとよ。それでおしまい」 そこまで言って、ギルバートはまたククッ…と背中で笑った。 私もつられて笑ってしまった。 「ちょっ…ちょっと待ちたまえよ。 それで、その珍妙な男は一体何者だったのだ?結局金も取らず、妙な水を渡しただけ。 大の大人をからかっただけかい? なんなんだ、そいつは一体」 私の問い掛けとほぼ同時に、ギルバートが手にティーカップを持って戻って来た。 私の目前に、長い間放置されていたミートパイの皿を取り上げ、素早く手にしていたティーカップとすり替える。 そして私の疑問に答えて言った。 「奴はペテン師さ」と。
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