第2章の1

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薄暗闇の広がる修道院の中には、おびただしい数の蝋燭が灯され、ある種異様な雰囲気を作り上げている。 その中で、そこに集まった地位も名誉もある人間達が、今か今かとペテン師の登場を待ちわびているのだ。 「私がここに居てはいけなかったのかい?」と、私はギルバートに問うた。 「居ようが居まいが別にいいけど、これはまだ警察の出る幕じゃないだろ?ここに居る奴らが、未だ誰1人被害届けを出していないんだから」 ギルバートが、一際声をおとして言った。 この男は、今日ここに集まった者達も、自分の依頼人すらも軽く馬鹿にしていた。 その時、参列者席の前方の方から歓声が上がった。 私達の注意も、自然そちらに引きつけられる。 我々の目線の先に、1人の男が姿を現した。 私達から、向かって右側の扉から静かに会場に入って来たその男は、ギルバートとは対照的である。 全身黒の司祭服姿に、髪もギルバートのそれとは正反対な漆黒だった。 また、その格好がそう見せているのか、身体つきは非常に細身であり、肌の色は、服とは相反して透けるような白さだった。 歳の頃合いは、ギルバートとさほど変わらないように見えたけれども…。 皆の視線を一身に浴びながら、男はゆっくりと中央へと歩を進め、静かに祭壇についた。 その細面がにこやかに笑う。 その瞬間に会場の中のムードは一気に高まりをみせた。 誰もが中央のその男に拍手と歓声を浴びせていた。 私とギルバート以外、その場に詰め掛けていた誰もが。 満を持して、エドワードが口を開いた。 「皆さん、わざわざお集まり下さってありがとうございます」 エドワードの声が響き渡って、会場の声という声を消し去った。 一気に修道院が元の静寂にかえる。 「前回、皆様よりお預かりした寄付金は、恵まれない者達の手に渡りました。私は皆さんのご好意に大変感謝しております」 そこで再び大きな拍手の波が起こった。 隣でギルバートが舌打ちをした。 一息ついて、エドワードは再び語り始める。 「私は皆さんのお気持ちに精一杯答えねばならないと思っております。今宵再び私から、ここにお集まりの皆様に神の力を分け与えましょう」 先刻よりも、一際大きな拍手喝采が起こった。 “神の力”…。 つまり、ギルバートが言っていた、あの聖水が出てくるのか…。 私も、会場の者達も、固唾をのんでその瞬間を待った。
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