第2章の2

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第2章の2

その日、エドワード・フェニックスは、詰め掛けた信者達に聖水を配り、それと引き換えに“恵みの寄付”と称した金銭を受け取ると、小一時間程で会を解散した。 私は集会の間、終始不機嫌そうだったギルバートと連れ立って家路についた。 ガス灯の灯り始めた歩道を辿りながら、私は彼に尋ねてみた。 「君はいつもあれを見に行ってたのかい?」 「ええ…?まぁ、今日でまだ3回目位だけど」 ギルバートは難しい顔をして、気のない感じの返事を返した。 彼も考えているのかもしれない。 さっきエドワードが我々に見せたあのイカサマのことを。 そう考えた私は、私自身もとても気になっていた、その話題へと話を移行することにした。 「あのワイングラスから水が湧き出てくるやつ、あれを見たのは今度が初めてかね?」と私は尋ねた。 「ああ。といっても、毎回飽きもせず、似たようなことをやっているけどね。 観客も観客さ。 よくもまぁ、毎度毎度騙されて、ああも盛り上がれるよね」 ギルバートは鼻でクスッと笑った。 「しかし不思議だとは思わないかね?一体どうすればあんな風に、何も無いグラスの中から水が湧いて出てくるんだ?」 「嫌だなぁ警部、そんなこと本気で考えんなよ。あんなのは単なる、よくある、誰にでも真似できる簡単なマジックなんだからさ」 ギルバートはようやくいつものように明るく笑うと、私の背中をバシバシ勢いよく叩いた。 私は思わずむせかえる。 「え?じゃあギルバート、君には分かってるっていうのか?あの時エドワードが使った仕掛けの謎が?」 「…て、警部。本気で分かってなかったのかよ?」 目の前の若者と、私との間に、幾分冷ややかな空気が流れた。 一瞬の間の後、ギルバートは気を取り直したように、真面目な顔に戻って言った。 「警部、じゃあ訊くぜ? それなら何故、あの時エドワードはワイングラスを確認させる段階で、観客にグラスを手に取らせなかった? 何故その手に取ったまま、観客に見せたんだ? 本当なら、見ている者1人1人にその手にグラスを持たせて、その手で触らせて、隅々までタネも仕掛けも無いことを確認させた方が、ずっと何倍も信憑性が上がるってのに」 「そ…そりゃまぁ、その通りだが…。 しかしあの時、どっちみち何も仕掛けが無かったことが、その場に居た観客によって確認されたことは確かじゃないのかね?」 「警部!」と叫んでギルバートが私に詰め寄った。
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