第2章の3

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第2章の3

私はこの日、ワイングラスを相手に遅めの夕食をとった。 ギルバートのところと、全く同じ造りなのに、大変生活感に溢れた一室で、キッチンの丸テーブルに1人腰掛け、蒸かしたジャガイモをフォークでつつきながら、目線はずっと自分の目の前で逆さに鎮座したワイングラスに注いでいた。 食べ物は無意識に口の中に運ぶ。 私は昔っからこうだった。 厄介な事件を抱えると、食事をしている最中でさえそのことが頭を離れなくて、いつも私は事件の資料に目を通しながら食べた。 結婚していた時でさえそうだったので、妻にはしょっちゅう注意されたものだ。 今から思うと、本当に悪いことをしたと思う。 しかし困った性分の私は、決まっていつも一度執着してしまったことは、解決がいくまでどうしても手放せないのである。 今回もそうだった。 私にはどうしても納得がいかない。 どうしたらこの、空のワイングラスから奇跡のように、一瞬にして水を出してみせることができるのだろう。 確かにあの時、ほんの一瞬ずつではあったが、エドワードは観衆にそのワイングラスの中には何も無かったことを確認させている。 それも至近距離でだ。 ワイングラスに何か仕掛けがしてあったなら、そこで誰かが気付いた筈。 「あ…」 そこで私は思い出した。 そうだ、エドワードが、ワイングラスと一緒に手にしていたあの黒い布…。 彼は逆さまにしたワイングラスを、その上に乗せて見せていたのだったな…。 それを思いついて(だから結局、それがどういう風に仕掛けに関係あったのかは分からなかったが)私はあの時の、黒い布の代わりになる物を探した。 寝室の中で、チェストの引き出しを適当に開けていくと、黒くはなかったが、丁度いい大きさの白い布があったので、それを代用することにする。 そしてそれを持って、キッチンへと舞い戻った私は、一度エドワードのやったことを真似てみることにした。 グラスは、最初布に包まれていて、既に逆さにして置かれていたのだった。 エドワードはそれを解き、そのままの格好で、布とワイングラスを手のひらに乗せ、観衆に見せた。 私も特に見せる相手などいなかったが、エドワードを真似て他人に見せる振りをした。 そしてエドワードがやったように、そのまま右手を返して、ワイングラスを上に向ける。 つまりこの瞬間、グラスが再び布の下に隠れることになる。
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