プロローグ

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私が54歳で病気を理由に退職してから、今年で早2年になる。 今朝方、10年振りにある友人から手紙が届いた。 私は、その封印を解いて、友人からの答えを受け取る前に、私が解き明かした真実をここに書き記しておきたいと思う。 私の警察官としての人生において、未解決に終わった事件はいくつかあるが、そのどれもが悔やまれてならない中で、一際深く印象に残ったものがある。 しかしそれは、特に凄惨なのでも、猟奇的な殺人事件だというのでもなかった。 最終的に、死んだ人間はたった1人だったのだから。 だから私は、あのことが、あの男が、歴史に名を残すとは思わないし、むしろ私が、刑事を辞めて2年という歳月を経てから真相にたどり着いたのでもなければ、私自身でさえ長い月日の内に記憶の底に埋没させていたかもしれなかった。 他のもっとむごたらしい事件にその存在を消し去られて…。 だがしかし、あれから10年もの月日を経て、遂に私は知ってしまったのだから仕方がない。 10年…。随分長かったと思われるだろう。 しかも、その真実を知ったところで、私は最早警官ですらないのだ。 しかし、私はここにそれを記さずにはいられない。 私がこの歳になるまで生きた中で、最も天才的で、生涯忘れられないであろう、あの男の物語を…。
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