第2章の3

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そしてエドワードは左手のひらでグラスの足を支え、布の上から右手をグラスの口にあてがって、そのまま布を掴み取る! 「何も無い…」 当然、同じことをやってみた私のワイングラスの中には、何も入ってはいない。空のままだ。 一体どうやったら、何も無いグラスの中に水を仕込むことができるのだろう。 それも囚人監視の中で、一瞬の内にだ。 私は最初、服の袖口に何か容器でも仕込んであったのではないかとも思ったが、それでは実際に水をグラスに注ぎ入れる時、布をめくり上げなくてはならなくなるし、第一、袖口から不用意に水が零れ落ちないように、動きがとても不自然になってしまう…。 私は完全に行き詰まってしまった。 翌日、ワイングラスと白布を署に持参し、仕事の合間にもにらめっこを続けていると、若い刑事に訝られてしまった。 「どうしたんですか警部?何ですそれは?」 答えに窮した私は、反則だとは思いながら、試しに若い頭脳に助けを求めてみることにした。 「いや、なんでもないんだが…。ところで君、どうやったら空のワイングラスから水を出してみせることができるだろうか?」 若い刑事は、少しはにかんで、「警部、マジシャンにでもなるつもりですか?」と言った。 「別に、そういうわけじゃないんだが…」 「残念ですけど警部、空のワイングラスから水を出してみせるなんてことは不可能ですよ」 彼はあっさり結論づけると、困った風に笑いながら立ち去って行った。 簡単に諦めんでくれよ、と言いたかった。 不可能なことなど、百も承知なのだから。
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