第3章の1

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第3章の1

次の日曜日の夜も、私はギルバートと共に例の修道院へと向かった。 「警部、あんた実は暇なのか?」 と、ギルバートは相変わらずの調子で私の選択を面白がっていたが、私とて決して暇なのではなく、正直段々エドワード・フェニックスというペテン師に興味を持ち始めていたのだ。 いつも事件の犯人を追う時と同様、私はあのエドワードという男が一体何者で、一体どんな目的で、何をしようとしているのか、ぜひ突き止めてみたいという気持ちに駆られていたのである。 この日も小さな修道院の中は、多くのペテン師信奉者達でごった返していた。 心なしか、先週よりも増えたようにも思える。 ギルバートと私は、やはり前回からの定位置に落ち着いた。 そしてこちらも前回同様、エドワード信奉者達の会は、大きな拍手喝采のもとに開始された。 やはり今回も、エドワードが最初に発したのは、観衆に対する御礼の言葉だった。 詰め掛けた者達は大いに喜び、そして次に男が見せてくれるであろう奇跡を待った。 しかし今日のエドワードは、何を勿体付けてか、こんなくどい言い回しから入ったのである。 「皆さんご存知のように、私はこうして神の力を分け与えられた人間です。 私が幼い頃、ある夜のことでした…」 なんだかそれは、彼の昔話のようだった。 いかにして自分が、天からその力を授かったのかという…。 「父と私が、何処かへ呼ばれた帰りでした。 家へ帰宅する為に、もうすっかり夜も更けた中、馬車を走らせていたんです。 そうしたら、私達は運悪く馬車強盗に出くわしてしまったのです」 まるで、修道院の中にエドワード1人しかいないようである。 会場は水を打ったように静まり返り、誰1人声を発する者はいない。 誰もがエドワードの話に聞き入っていた。 「私達は数人の男に馬車から引きずり降ろされました。 その場にいた誰もが助かる為に必死で、父も私を守る為、金品を強盗に渡してしまうことを躊躇いませんでした。 私は必死で神に祈りました。どうか私達を助けて下さいと。 必死で必死で、何度も祈りを捧げたのです。 そうしたら、急に目の前に閃光が走って明るくなったのです。 私達は目を閉じました。 そして次に目を開けると、そこにはもはや恐ろしいものは何もなかったのです。 夜の闇と、横倒しになった馬車と、静寂だけがそこにありました。
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