第3章の1

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私は思い切って、参列者席の最後方から手を挙げる。人混みに埋もれてしまわぬように、必死で右腕を天に向かって高く突き出した。 「ちょっ…警部!」 流石のギルバートも、私のすっとんきょうな行動に面食らったらしい。 声にはならない声で私を制しようとした。 その時、エドワードの注意が明らかに自分に向いたのを私は確信した。 「何やってんだよ!」と言って、私の手を下げさせようとするギルバートの小声に重なって、エドワードが初めて私に語り掛けたのだ。 「後ろの方、どうかなさいましたか?」 エドワードの声が響きわたった瞬間、会場の中は再び沈黙に返り、今度は私の上に大量の視線が降り注いだ。 ギルバートは予想外の事態に、隣で口をパクパクさせている。 なんだか私は、一本取り返したようで、大人気なく得意になっていた。 だから私は構わず言った。 「私がここへ来たのは、今日が2度目です。 しかしながら、私はあなたのお噂を常々賜っておりますし、あなたの仰ることも、決して嘘偽りとは思っておりません。 しかし、私はまだあなたの手によって作り出される奇跡を一度しかこの目で見ていません。 ですからどうでしょう? もう一度、私に見せてはいただけまいか。そうだ、先程あなたが話されていた、透視の力、それがいい! 今10マイル、20マイル先で起こっていることでも、あなたの目になら映るのでしょう? なら、それを今ここでやって見せては下さいませんか?」 私は話しながら、エドワードを真似て精一杯目を輝かせて芝居を打った。 果たしてエドワードの居る場所まで、それが届いていたかは不明だが…。 会場が一気にざわめき始める。 侮蔑したような目で私をじろじろと見てくる者もいた。 ギルバートは隣で呆れたように溜め息をついた。 正直私は幾分興奮していた。 それをじっと堪えて、悟られぬように唇を結びながら、私はこのエドワードという男が次に一体どう出てくるか、ワクワクしながら待った。 しかし私の予想に反して、エドワードは非常に落ち着いた口調で、一瞬たりとも表情を変えぬまま、静かに、しかし大変通る声でこう言ったのだ。 「あなたは警察関係者の方ですね」と。 また観衆は色めき立った。 私は逆に不意をつかれ、思わずそれを顔に出してしまう。 しかし狼狽の色は、それと思われる前にすぐ引っ込めて、
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