第3章の3

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第3章の3

「いい加減にしろよ、バーカ。ちゃんちゃらおかしくて、笑う気にもなんないね」 私の隣で、1人の若者が声を上げた。 ギルバート・ライアン。遂に真打ち登場か…。 主演俳優が舞台に上がった。 では私は下がるとしよう…というよりは、下がらざるを得ない。 先刻の強気は何処へやら、私はエドワードの手の内の鮮やかさに、返す言葉を無くしてしまったのだから。 余りにも場に不釣り合いな言葉を発した若者に、観衆はどよめいて、先程私に向けたよりも、より険悪な目線を投げつけた。 「何ですか?あなたは」 流石に毅然とした調子で、エドワードは新たな敵に対峙する。 「“何ですか”…?“何ですか”だって? はッ、馬鹿馬鹿しい。 警部のことまで調べ上げてんだから、俺のことなんか百も承知だろうよ」 ギルバートは私の前をすり抜けて、中央の通路に進み出た。 前方、祭壇の前に居る男をじっと、両の目で見据える。 エドワードもまた、その目をほんの一瞬もそらすことなく、ギルバートの視線を真っ向から射抜いた。 「“調べる”…?私が一体何を“調べた”と言うんですか?」 「いいさ。すっとぼけるなら、こっちから教えてやる。別に隠す必要なんか無いんだから。 俺はギルバート・ライアン。こう見えて弁護士さ。 あんたは俺を知ってる筈だ。 何故なら俺は、もう何度かここに通って来てる。 それもこれも、全部あんたを告訴する為。 今俺の目の前に居る、このチンケなペテン師野郎を」 会場中の空気が一瞬白く染まり、まるで赤いマグマのように、それは一気に吹き出した。 「誰が“ペテン師”だって!?」 「神への冒涜だ!」 「エドワードが“ペテン師”というならその証拠を見せてみろ!」 「この無神論者め!」 口々に、ギルバートに対する非難の声が湧き上がった。 あちらからもこちらからも、それはまるで波紋のように四方へ広がりをみせる。 しかしその中央で、ギルバートは至極平然と立っていた。 相変わらずその目はエドワードの姿を捉えたまま、微塵も動揺をみせない。 ただ今日は笑わないだけで、一週間前、帰宅した私を仁王立ちで出迎えた時と、それはとてもよく似ていた。 しかしそれは、かたや“ペテン師”も同じだった。 「私を告訴すると?冗談でしょう、一体誰が訴えるのですか?」
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