第3章の3

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「えらい自信だ。確かに、あんたを訴えるのは、ここに居るような熱心な信者の1人じゃない。 でもここに居る人間よりも、もっと愚かな者が居たことをあんたは忘れてるな。 おっと、そいつの名前はここじゃ挙げないぜ。一応クライアントの秘密は守らないと」 若き弁護士は、大袈裟に両の肩をすくめた。 そしてペテン師はどこまでも笑って惚ける。 「何を仰っているのやら?あなたは何か勘違いをしているのではないですか?」 「いいぜ、そっちがその気なら。 ここに居る人間全員に教えてやる。あんたが半年前にやったこと。最初のイカサマ。 さぁあんたら、聞く気あるかい?」 そこで初めてギルバートは祭壇の前から視線を外した。 そして何処に用意してあったのか、突然黒い布に包まれたある物を観衆の目前に出してみせた。 次に、自らの右手の上に注がれる多くの目線を一瞥する。 そしてギルバートは、その中心で、例の手品を鮮やかに披露したのである。 観客は一瞬、何が起こったのか理解できず、ただ床の上に勢いよく零れ落ちるワイングラス一杯の水を、口を開いて見つめているしかなかった…。 それでもペテン師は顔色ひとつ変えやしない。 そして一言、こう口にした。 「神聖な修道院の通路を汚すことは許されません。拭いて下さい」と。
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