第3章の4

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出れば必ず当選させるとあんたは言ったけど、それは所詮確率の問題だった。 あんたは自分の言葉を信じて訪ねて来た者全員に“聖水”と偽った水を渡し、結果として当選した者達から礼金を受け取ったんだ。 たかだかそんなことが、あんたの最初の奇跡だったってわけさ。 ただあんたにとっての誤算は、俺のクライアントのように、落選した者の中から、自分を訴えると言い出す者が現れたということ。 ただその一点」 聴衆達は、相変わらず互いに顔を見合わせ、口々に何かを言い合っていた。 ギルバートの話を聞いて、「そう言われてみれば確かにそうだ」と言う者が居れば、「エドワードがペテン師の筈がない」とそれに反論する者、「神の力を馬鹿にすると天罰が下る」と本気で恐れる者が居た。 「るせぇ!俺の話も静かに聞けー!!」 キレたギルバートが周囲の人間に向かって吠えた。 「それなら」と、先程エドワードにウェールズの工場で起こった出来事を言い当てられた小太りの男が、一歩前に進み出た。 そして後方の若き弁護士をピタリと見据えて、「さっきの透視も全て嘘だったというのか?じゃあ一体どうやったとあんたは言うんだ?手品だったというなら、その理屈も証明してくれ、今すぐに!」と言った。 確かに、この場の全員を理詰めで納得させるには、もう1つの謎もここではっきりさせねばなるまい。 私はギルバートを見た。ここからどう出るか…。 しかし、「そんなことも分からないのか?」とギルバートは軽く男の問いを切り返した。 「簡単じゃないか。はなっから、暴動を仕組んだのはエドワード自身なんだから」 「な…っ!」 会場中が動揺する。 「いい加減なことを言うな!」と怒鳴る声が四方八方から飛んでくる。 エドワードとギルバート。 この2人だけが唯一冷静だった。 それが芝居なのか自信なのか、あのペテン師は薄く口元に笑みを浮かべたまま、ほんの数ミリも表情を動かしはしない。 そしてそれが、信奉者達をより援護に向かわせた。 「私が仕組んだ?暴動を?」 「そう。もともと、大商人に仕事や土地を奪われ、彼らを憎んでいる農民や労働者は多い。 あんたはそれを利用し、今回の話を持ち掛けた。 たっぷり金を払うから、そこの小太りの男が経営している工場を襲ってくれと。ただ少しでいい、ほんの一部だけ壊したら、すぐに撤収しろとあらかじめ吹き込んでおいた。
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