第3章の4

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言われた方は本意のことだったし、金までくれると言うのだから、反論の余地はない。 あんたは最初っから、警部が言い出さなくても自分からやって見せるつもりだったんだろ?さっきの透視ってやつを。 だから最初にあんな昔話をしたのさ」 小太りの男は青くなっていた。 もしもギルバートの言うことが事実なら、今すぐにでもエドワード・フェニックスというペテン師を訴えるつもりかもしれない。 観衆は少し静かになった。 そしてエドワードとギルバートの顔を交互に見つめる。 「だったら、その農民や労働者を探して、直接訊いてみて下さいよ。 本当に私が、そんな愚かなことを持ち掛けたかどうか」と、エドワードがよく通るその声を発した。 「無駄だろうな」 ギルバートが肩をすくめて言った。 「あんた金持ちだから。よほどの大金を渡したんだろう?そしてそれで口止めしたってわけさ。 いくら俺が血眼になって探し出して詰問したとしても、誰も口を割りはしないだろう」 するとエドワードは、にこりと目を細めて、慈悲深い笑顔を作って言った。 「だったら何も根拠はありませんね。 ワイングラスのタネにしたって、本当に私が奇跡をこの手で起こしたという証拠も無い代わりに、私がそんなイカサマをしたという証拠もありません。 暴動のことにしてもそうでしょう?私がそれを仕組んだかもしれないし、仕組んでないかもしれない。 どちらであるかは、皆さんに信用していただくしかありません。真実を知っているのはこの私と、そして神のみです。ですから…」 そこで一度、エドワードは残念そうに俯き、観衆に向かってこう語り掛けた。 「こんなことを申し上げるのは、本当に心の痛いことですが、皆さんが私よりも、その弁護士さんのおっしゃることを信用なさるというなら、どうぞこの場から出て行っていただいて構いません。 お受け取りした寄付金も、一切お返し致します」 会場中が久々に静まり返った。 1分、2分…。 エドワードはじっくりと沈黙を保ち、誰かの足音が響くのを待った。 しかし3分が経過しても、結局誰1人微動だにしない。この修道院に詰め掛けた者達は皆、エドワードの言葉を信じたのだ。 私は静かに息を吐き出した。 負けた、ギルバート…。今夜は君の負けだ。
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