第4章の1

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第4章の1

「自分が騙されていたなんて、誰も思いたくないのさ。特に金持ちはプライドが高いからね」 私の目の前で、ギルバートは勢いよくやけ酒を煽った。 エドワード信奉者の会合は、様々なアクシデントを乗り越えて、1時間遅れで無事終焉を迎えた。 それからこの夜半まで、私は延々ギルバートの部屋に付き合わされているのだ。 私は翌日からまた仕事だったので、正直そろそろお暇したかったが、ギルバートはそんなことに一切構うことなく、私でもなかなか口にしないような、度数のキツイ酒を何度もグラスに注いでグビグビと飲み干す。 この男、相当強いらしい…。 「警部!あんたもいけ!悔しいだろ?飲まなきゃやってられんだろ?いけ、ぐっとやれ!」 ギルバートは、私の空になったグラスに、ドボドボと景気よく酒を注ぎ足した。 やれやれ、さっきからずっとこの調子だ。 仕方がないので、私はそれに口をつけ、若者が諦めるのを待った。 「甘かった…。なぁ警部、俺ァ正直甘かったよなァ…」 ギルバートは既にそろそろ酒乱と化していた。 しかしこの男の暴走は続く。 しまいには、ボトルに直接口をつけて酒を煽り始めた。 「こら!いい加減に止めるんだ、ギルバート!」と私は叱って、その手から酒のボトルを奪い取る。 「お前の気持ちは分かる。分かるが、酒に飲まれたところでこの事件は解決せんぞ!」 ギルバートはしばしの間、惚けたように、トロンとした目で私を見つめていた。 そして、「警部…再婚しなよ…」と、何やら支離滅裂なことを言い出した。 「な…何を言っとるんだお前?」 突然今まで話題にも上らなかったようなことを言い出され、私はあからさまに動揺した。 「だってそうでしょ…?俺がいなくなったら、誰が警部の世話やいてくれるっての…」 「失敬なことを言うな!私だって、この歳まで自分の面倒は自分でみてきたんだ。お前に心配されるいわれはない!」 言って、私は酒のボトルをテーブルの足元に放り出した。 酒乱の手の届かないところへ。 全く、この若者は、たった半年、たまに私の食事の世話をしたくらいで、私が1人で何もできない人間とでも思っていたのか。 もしも本当に、1人では何もできないのなら、もっと早くにこんなアパートは出て行ったさ。 「第一お前が居なくなったら、もうお前のあの酷い手料理を無理して食わなくても済むだけせいせいするよ」
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