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第4章の2
次の日曜日。
ギルバートは今日も集会に赴くのだろうか。
そう思いながらも、なんとなく声を掛けづらかったので、私だけ先に修道院へと向かうことにした。
ギルバートはこの一週間、一度もあのペテン師の名を口にしなかった。
まさかあの若き弁護士が、途中退場してしまうとも思えないが、今日も来るとは限らない。
いつもよりも少し早めの時間に修道院に辿り着いたのだが、既に中は多くのエドワード信奉者達で一杯だった。
私が後方の扉を静かに開けて中に入ると、集団の後ろに並んで立っていた数人がそれに気付いて、あからさまに嫌な顔をした。
私のことを覚えていたらしい。
「あんたまた来たのかよ」
私が彼らの列の真後ろについた時、いかにも金持ちそうなその内の1人が声を潜めて言った。
私はあえて答えず、軽く一度咳払いをして誤魔化そうとした。
「あの若くて、失礼な弁護士も一緒か?」と、その男は首を巡らせてギルバートの姿を探す。
「…いや、彼は今日来るかどうか…」
「そりゃそうだろうな、もう恥ずかしくて来れやしないだろう」
男は唇の端をつり上げて、嫌みに笑った。
私は気分が悪くなった。
「あいつは馬鹿だぜ、警部さん。
エドワードは決してあんな手品のようなことばっかりして、俺達から金を取ってるんじゃない。俺達はちゃんと、それ相応の恩恵に預かってるのさ。例えばこの俺」
男は半ば夢中で私に語り掛けてきた。
その瞳はまるで、おもちゃを与えられた子供のように輝いている。
私は鬱陶しいな、と思いながらも、黙って男の話に耳を傾けた。
「俺は1年前に、親父から工場経営を任されたばかりでね。
受け継いでしばらくは、業績の伸び悩みに苦しんだ。
俺も新人工場主で、改善の突破口がつかめなくてね。
そんな時に、あのエドワード・フェニックスという男に出会った。
奴は言ったね。
従業員達の労働時間を削って、休息を与えろと。神の言葉ってやつを俺に教えたんだ。
俺は何を馬鹿なと思ったさ。そんなことをしたら、ただでさえ悪い作業効率が更に下がっちまう。
ところが俺がそう話したら、エドワードは、列の聖水を俺に差し出して言ったのさ。
“騙されたと思って、従業員の休息時間にこの水を与えて下さい。そうすれば業績は、必ず上向きます”ってな。
俺はその通りにしてみた。
そしたらどうだ!翌月からの業績は、まるで魔法のように鰻登りだ!」
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