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第4章の3
「勝負しませんか」と、エドワード・フェニックスは言った。
「こういう言い方をすると、随分俗っぽいと思われるでしょうが、あなたに私の力を信じていただくには、もうそうする他にないような気がします」
ギルバート・ライアンの姿を、再び今日確認したペテン師は、自らの信奉者達の面前で、この若き弁護士に宣戦布告を申し出たのである。
といっても、顔には例のように柔和な笑顔を貼り付けていて“宣戦布告”というには、余りにも平和的なそれだったが…。
ギルバートは、相手の手の内を伺っているのだろう、しばしの間黙っていた。
いつかのように、参列者席に挟まれた通路に立って、じっとその男を見据えながら。
「私がこの場でもう一度、神通力をあなたにお見せし、もしもあなたがそれをトリックであると見破ったなら、私はここに居る皆さんから預かった金品を全て返して謝罪しましょう。訴えると仰るのならそれで結構。
ただし、あなたが何も見破ることができなかったら、信じていただかなくても別に構わない。
ただ、ここにはもう来ないで下さい」
観衆の視線を痛い程に浴びながら、エドワードは大変物腰穏やかにルールを述べた。
そしてギルバートの返答を待つ。
「…ふぅん、勝負ねぇ。上手く俺を誤魔化してみせるってのかい」
ギルバートはようやく卑屈な笑顔で笑った。
「あくまでもエドワードがペテン師だってんなら受けて立ちな!」
誰かが人の群の中でそう叫んだ。
「そうだそうだ!」と賛同する者の声がいくつも後に続く。
私は明らかに嫌だと思った。
ギルバートに、この勝負を受けさせるのが…。
これは完全に罠だと思ったのだ。
言い出したのがあのペテン師なのだから、絶対に何か策略がある筈だ。
相手とて、この若き弁護士をそう見くびってはいない筈。だとしたらこの“勝負”は…。
私はそう案じたが、ここでこの申し出を退けたら、それこそ“負けた”のと同じことになってしまう。
だからこそ、あのペテン師はあえてこの場でケンカを売ったのだ。
どっちみちこの状況では、売られたケンカを買う他に道はなかった。
ギルバートもそう考えたのだろう。ふぅっ、と一度溜め息をついて、ついに「分かったよ」と言った。
「ありがとうございます」とエドワードは答え、次に祭壇の後ろからある物を取り出してきた。
「では、これを使いたいと思います」
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