第4章の3

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そう言って、エドワードが公衆の面前で披露したのは、単なる黒い木箱だった。長方形で、両手で充分に持てる大きさの…。 そしてエドワードは、ゆっくりと中央の通路を進みながら、その蓋を開けて、中に何も仕掛け等が無いことを観衆にアピールしてみせた。 そして通路の半分まで来たところで、ギルバートに言った。 「あなたにはここで、この箱を両手でしっかり持っていて頂けるだけで構いません」 しぶしぶ、といった感で、通路の中央まで進み出て行ったギルバートの手に、エドワードが黒い箱を手渡す。 未だかつてなく、2人は至近距離で言葉を交わした。 「ただつっ立ってりゃいいって?」 「そうです。そうすれば、あなたの後ろからも横からも前からも、皆さんがしっかり監視していて下さいます。 私が余計なことをしないかどうか。 勿論、あなたも納得がいくまで、この箱の中を調べて頂いて結構ですよ」 エドワードはそう伝えると、再び祭壇の前まで戻った。 会場の中は激しい緊張感に包まれ、凍り付いたようだった。 一体何が起こるのか期待している者がいれば、絶対にエドワードが勝つに決まっているとタカを括って、早くこの若き弁護士の泣きっ面を拝みたいとワクワクしている者もいたし、どちらに軍配が上がるかとハラハラしている者もいた。 「警部さん、あなたも手伝って下さい」と、突然エドワードは私に申し出た。 「私ですか?」 私は思いがけず面食らって、自分で自分を指差す。 この男は、よほどこのイカサマに自信があるらしく、またよほどその勝利に信憑性を与えたいらしかった。 仕方なく、警察官の私も中央に進み出た。 「あなたはこの会場内の、誰でも構いませんから、1人選んで指名して下さい。 そしてその方は、中央まで出て来て、弁護士さんの持っておられる箱の中に私物を1つ入れて下さい。何でも構いません。 私はずっと祭壇の向こうに居て、目を閉じています。 勿論反対側を向いて立ったままです。 指名された方が、元の場所にお戻りになった時点で言って下さい。 箱の中身を当ててみせましょう」 多少のざわめきが起こった。 私は、ただ黒い箱を構えてぼぅっと突っ立っているギルバートに耳打ちで尋ねた。 「おい。その中を確認しなくていいのかね? 何か仕掛けが隠れているのかもしれんぞ。いつかのワイングラスの時みたいに」
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