第4章の4

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第4章の4

“トリックは既に読めている”と、私にそんな勝利宣言をしたくせに、ギルバートの顔色は何故かとても浮かないものだった。 エドワードは説明を終えると、すぐさま祭壇の向こうに行き、私達に背を向けて立った。 自分で目隠しまでして。 周囲の人間の無言の催促がとてもうるさかったので、私は箱の確認を終えると、すぐに会場の中を歩いて見て回り、前から8列目の端っこに居たひょろっとした男を適当に捕まえて、ギルバートの元へと引っ張って行った。 男は面倒臭いことに、しばらく何を箱の中に入れるか、ちまちまと悩んでいたが、1分後には身に付けた私物を1つ選び終えて、静かに箱の中に忍ばせて席に帰って行った。 そしてその一部始終を、誰もが食い入るように見ていた。 「終わったぜ、エドワードさんよ。秘密は見えたのかい?」と、ギルバートが前方に合図を送った。 「分かりました。このままの体勢で、箱の中身を当ててみせます」 エドワードの言葉に、会場が三度どよめいた。客の息遣いで、灯された蝋燭の火が揺れる。 ペテン師は大きく息を吸い込んだ。 そしてそれをじっくり、ゆっくりと吐き出しながら… 「箱の中身は紙…“書類”ですね」と言った。 その言葉に会場中が息を呑んで、私もそれにつられた。 「…ほぉ“書類”ね。一体何の書類かな?」 ギルバートは余裕たっぷりに言って、その物言いとは裏腹に、慎重な仕草で箱の蓋を取り、痩せた男が入れた“中身”を取り出す。 ちなみに空になった箱は、無理矢理私に押し付けた。 「…それは」 「“それは”?」 エドワードは、しばしその答えを出し渋って、 「それはここで申し上げない方がいいと思います。とても重要な内容のものなので…。 弁護士さん、あなたならお分かりになるでしょう?」 と言ったのだ。 その瞬間、金持ち達が次々に大声で歓声を上げ始めた。 それらは一気に祭壇の向こうまで飛んで行って、ひとえに祭り上げられたペテン師を包み込む。 ギルバートは平気な顔をして、フンッと一回鼻を鳴らした。 そして観客達の声に埋もれないように、一際大きな声で…というよりも怒声で、 「おい、前の痩せっぽっちのノッポ野郎!用は済んだぜ、てめぇの封筒とっとと取りに来やがれ!」 と叫んだ。
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