第4章の5

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第4章の5

「あんたって奴は本当に卑怯だな」 それがギルバートの第一声だった。 そしてそれは、三度観衆の反感を買った。 「どういうことでしょう?」と、エドワードは余裕しゃくしゃくの笑みでそれに答える。 「この中に居るんだろ?あんたの“共犯者”が」 そう言いながら、ギルバートは周囲に首を巡らした。 「“共犯者”だと!?いい加減なことを言うな!」 とギルバートの言葉に答えたのは、エドワード本人ではなく、観衆の中の誰かだった。 ギルバートの言った通り、この中にエドワードの共犯者が居るとするなら、今の声の主は除外だな、と私は思う。 さっきのひょろっとした男の線も、当の私が選んだのだから無しだ。 しかしまた“共犯説”とは、えらくもっともなことだ。いや、もっとも過ぎて、かえって疑わしいくらい…。 私はギルバートに、考えた通りのことを言った。 「なぁ、ギルバート。 もしもこの中に、君の言う共犯者が潜んでいたとして、さっきの男が箱の中に入れた物をしっかり見ていて、それをエドワードにこっそり教えたのだとする。 しかしエドワードは、どっちみち祭壇の向こうに居て、目隠しまでして後ろを向いて立ってたんだぞ? どうして共犯者と話ができた? しかもこの大衆の面前で」私の意外な反対弁論に、エドワード信奉者達はわいた。 「いいぞ!警部殿、もっと言え!」と、私は口々に要らぬ声援を浴びせられた。 「あんた一体どっちの味方なんだよ!」と目くじらをたてたのは、勿論ギルバートである。 「その共犯の男とあのペテン師は、昨日今日組まれたにわかコンビじゃない。 本当はずっと、長い間互いに連絡を取り合っていて、綿密にその“合図”を打ち合わせてたのさ。 例えば、箱の中に入れたのが懐中時計なら“A”と言い、靴ならば“B”と言う…そんな感じに。 そしていちいちガタガタとやかましい、こいつら観衆の声に混じって、そのキーワードを堂々と口にして教えればいいのさ。 その証拠にエドワードは“重要な内容の書類”とは言ったが、肝心のその中身までは口にしなかった。 あれが裁判所が出した書類だったから、あえて口にしなかったのではなく、未開封の封筒の、その中身まで見えるわけがないから言えなかったのさ。
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