第4章の5

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共犯者もおそらくは、あらゆる可能性を考えて“重要書類”という意味の言葉は決めていたけれど、その内容を説明する言葉までは、まさか考えていなかったろうからな」 「そ…そうか?」 と私は言ったが、何だかまだ納得がいかなかった。 ギルバートが、例のワイングラスの仕掛けを目の前で証明してみせてくれた時とは何かが違うようで…。 エドワード信奉者達は、相変わらず言葉を慎まない。 この中に、前回の選挙で当選した代議士が混ざっているのかと思うと、私はゾッとした。 そんな彼らを無言の内に煽っていたのは、誰あろうエドワード・フェニックスだった。 彼の、あの自信に満ち満ちた微笑みが、信者達をますます信じさせる。 そう今も、エドワードは笑っていた。 やはりか…。 「俺があんたを卑怯だと言ったのは、その“共犯者”をこの中に隠したってことさ」と、ギルバートは言葉を続けた。 この若者も若者で、なんという頑強な精神の持ち主だろうかと思えてくる。 私が彼なら、流石にこの非難轟々の中にあっては、どんな自信も萎縮してしまうことだろう。 何がそうまでこの若者を駆り立てるのか、私はとても知りたくなった。 「この大人数の中に、あんたは自分の共犯を紛れ込ませた。 これだけの人数では、とてもじゃないがその1人を特定するなんてことできっこない。 調べるにも手の付けようがない。 あんたはそれを見越して、俺に勝負しろと言ったのさ。 あんたはどうせ、こう言って終わりにしてしまうつもりだから。 “だったら証拠を出せと”と。 “その共犯者を、ここに引きずり出して来い”と、あんたは言うつもりだから」 なる程、そりゃそうだ。 この中の1人1人を徹底的に全て調べるなんてこと、我々警察でも大変な仕事だ。 しかもその人物が特定できなければ、この推理は何の意味もなさない。 やはり罠だったか…。 しかし私の予想に反して、その時エドワードが突然とても悲しそうな顔をしたのだ。 そしてギルバートに向かって言葉を投げた。 「逃げないで下さいよ」と。 「そう言えば“勝負”はつかないとでも…? 言った筈でしょう、見破れなければあなたの負けだと。 私をどうしても訴えると言うなら、探し出せばいいじゃないですか、その“共犯者”とかいう人間を、この中から。
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