第1章の1

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ギルバートの言う通り、私はこの歳で、その部屋に1人で暮らしていた。 結婚は若い頃に一度していたが、3年と経たない内に妻は病にかかって亡くなってしまった。 以来ずっと1人ぼっちだ。 なんと女々しい男だと思われるかもしれないが、新婚当時、2人で慎ましく暮らしたこのアパートから離れることが出来ないのだ。 一方のギルバートは、半年程前にここに越してきたばかりだった。 金髪の髪が印象的な、今年で27歳だというこの若者は、一見すると10代後半のようにも見える、その若々しい見目に反して大変身なりが良く、始めは一体何者であろうかと訝ったものだ。 大変面白い男で、1人暮らしの私のことを案じてか、時々食事の世話をやいてくれる。 ただ死ぬ程料理下手なので、どちらかというとありがた迷惑だったのだが…。 果たして本人は無自覚なのだろうか? 正直私は三度死にかけた。 翌日出勤しようと、部屋を出た時、何か黒い物を踏みそうになって、私は慌てて後ろに飛び退いた。 一体何だと思ったら、ドアの前に鎮座していたのは紛れもなく、昨夜ギルバートが持っていた丸焦げの鶏肉だ。 すっかり冷めきった皿の上には、ご丁寧にも“朝食にどうぞ”と書かれたカードが添えられていた。 ………最早嫌がらせとしか思えない。
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