第5章の1

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まさか、会場に居た者全員を私に調べろと言うつもりか…? 「あの時、祭壇の向こうに立っていたエドワードに、完全に声が届く距離に居た者で、そこからならあのひょろっとした男が箱の中に入れた封筒の“押印”まで見て取れる場所に立っていた、前から5列目向かって左の銀行家と、逆側の工場主。 そして6列目向かって左の代議士と、逆側の大地主…その他4名を詳しく。 それなら可能だろ?」 「な…なる程、そういうことなら特定出来るな」 ギルバートは、コートのポケットから、折り畳んだ紙を出して、後ろ手に私に渡した。 「名前はここに書いてあるから」と言って。 「山勘だけどな。 さっきそう言わなかったのは、当の共犯者に警戒されないようにする為さ。 警部は上手いこと言って、その6人に探りを入れて」 メモ書きを手にしたまま、そこにしゃがみこんでいる私に、「さぁ早く行って」と、ギルバートは急かした。 「いやしかし、尾行というのは2人でするものじゃ…」 「俺は弁護士だから、何だっていいのさ」 ギルバートは振り返って、悪戯っ気たっぷりの顔で笑ってみせる。 仕方がない、とことんまでこの若者のペースに付き合ってやるか…と私は覚悟を決めて立ち上がった。 なんだか久し振りに、若かりし日の悪友とつるんでいるような気持ちになって。
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