第5章の2

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第5章の2

「いや私もね、いよいよあのエドワード・フェニックスという男を信じましたよ」と私は言った。 翌月曜日から、私はギルバートが言った通りの8人を、手の空いた時間に調べ始めた。 今目の前に居る、代議士・ギレンホール氏で3人目である。 幸いなことに、今週に入って大きな手の掛かる事件はまだ無くて、ホッとしているところだ。 私はそれぞれの金持ちに直接会うことにして、仕事を終えた後、堂々と真正面から邸宅まで訪ねて行ったのだ。 前回までの工場主と銀行家は、私の直感では白だったが…。 「そりゃあそうだ、警部殿。 あの男の神通力は全て本物なんですよ。粗を探してやろうと思ったところで、無いものはみつかりません」とギレンホール氏は言った。 驚く程豪華で広い客間は、優雅な音楽で満たされていた。 よく耳を傾けてみれば、それは私が先日逮捕した、あの女性ピアニストの作った曲だった。 ギレンホール氏も、彼女のファンだったのだろうか…。 そんなことを思いながら、私は出された紅茶に口を付ける。とても芳しい香りがした。 「ところがですよ先生。 あの愚かな弁護士は、まだエドワードのことを疑っていましてね。 いや、本当に往生際の悪い男ですよ。 自分の負けを、頑として認めようとしないんだ。私もいよいよ愛想が尽きてしまいました」 そんなことを言って、私はペテン師さながらに一芝居打ったのだ。 「何ぃ!?共犯はいないだって?」 土曜日の夜。 私は若き弁護士の部屋を訪れて、一週間に渡る調査の結果を述べた。 途端にギルバートは「そんな筈はない」と言って、椅子から勢いよく立ち上がった。 「そうは言っても、私とて刑事だ。 しっかり調べたさ。 容疑者の都合で、一度しか会えなかったギレンホール代議士と、キャンベル代議士以外は、全員と2回以上話をすることが出来たし、直接合ってみた印象では全員白だ」 私は自分の結論がいい加減でないことを冷静に主張した。 「“印象では”って…。あんた一体何を根拠に白だと言い切るんだ?」 ギルバートは納得いかない様子で私に詰め寄る。 「“刑事の勘”さ」 平然とそう言ってのける私に、ギルバートはもはや返す言葉を失っていた。 “勘”と言っては頼りないが、私とて長くこの仕事に携わってきた中で、何度も様々な問題を抱えた容疑者達に出くわしている。
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