第5章の2

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その人物が“白”か“黒”かぐらいのことは、一度会って話せば分かるというものだ。 ギルバートはへたれ込むように、再びテーブルについた。 「まぁ…いいさ。 あの8人の中にいなかったと警部が思うのなら、容疑者の数を増やして調べればいいってことだ」 「えっ!?」 まさか“共犯者”に辿り着くまで、私に調査を続行させるつもりか? ギルバートはうなだれた首をもたげた。 「“え!?”じゃないよ。あのペテン師の野郎が言ったじゃないか。 何が何でも証拠を出せと。 もしも本当にあの中に共犯者が隠れていたなら、探し出せる筈だって言いやがった。 警部がやらなくても、俺はやるね」 若者の瞳は、炯々と輝いていた。 本当に何という打たれ強さか…。 私は実に純粋に、兼ねてからの疑問を口にしていた。 「ギルバート、君は何故そうまであのペテン師にこだわるんだね?」と。 「へ?」 今度はギルバートが、とても不思議な表情を作ってみせた。 「どうしてって…。そりゃ、クライアントが待ってるからだけど…。 それに早くしないと…」 ギルバートはそこまで言うと、急に小声になって口ごもってしまった。 「“早くしないと”?早くしないと、どうなるんだ?」 「いや、分からないんだけど。 早くしないと、俺、あのペテン師に逃げおおされそうな気がして…」 ギルバートは、いつになく頼りない表情を浮かべて言いよどむ。 “早くしないと、逃げおおされる”と言われても、私にはますます訳が分からなかった。 「あのエドワードって男、元々そんなに長く信奉者を騙し続ける気なんてないんじゃないかと思ってたんだ、俺。 あんな小手先のイカサマで、それが長く続くとも思えないし、第一、大物ばかりを何人も狙うってところがね。 一度ほころびが生じたら、取り返しがつかなくなると思わないか? それを承知で、こんな大胆不敵な奇策を実行するなんて、そう長く今の状態を保ち続ける気がないからじゃないかと…。 あとそれから…先週、間近であの男を見て思ったんだけど、もしかしたらあいつ…」 その先の言葉を、私はギルバートが自ら紡ぎ出すのを待った。 しかし彼は、いつまでもどこか遠くの空間と、目を細めて会話しているだけで、全く拉致があかないのである。 あのエドワードというペテン師が、長く今の栄光にすがりついている気がないのは合点がいく。
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