第6章の1

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第6章の1

翌日曜日、私は三度あの観衆の中に居た。 エドワード・フェニックスの登場を、今か今かと待ちわびる信奉者達の作り出す熱気を、数多くの蝋燭が浮かび上がらせるこの独特の雰囲気には、やはり何度足を運んでも気圧されるものがあった。 頭からあのペテン師を信用している者達ならば、この雰囲気の中で何度騙されたとしても不思議ではないと思わせる程の世界観がここにはある。 私はいつも通り、一番後ろに席を構え、先程からチラチラと出入り口に視線を走らせていた。 ギルバートはまだやって来ないらしい。 今日は一体、いつ現れるのだろう。 そんなことを思っている内に、この日はエドワードの方が先に会場に入ってきた。 いつものように、ゆっくりと落ち着いた足取りで、聴衆からの大きな拍手喝采に迎えられ、あの男は中央の祭壇に立つ。 もはや決まりきった光景だった。 周囲の人間に合わせて手を叩く私も、今や彼らの仲間の1人である。 エドワードが、それもまたお決まりの訓辞を述べ始めた時、私の背後の扉が派手な音をたてて開いた。 風が入ってきて、いくつもの蝋燭の炎を揺らしていく。 私は、さぁ来たと思った。 少しばかり遅れて来るのも、何かの演出のつもりだろうか。そこまでは何の打ち合わせもしていないので、私は知らないが…。 会場の誰もが振り返って、今し方現れたその若者に注目した。 歓声が一気に冷め、代わりに次々と賞賛とは似ても似つかぬ言葉が後方に飛んでくる。 私もいよいよ振り返って言った。 「性懲りもなくまた現れたのか。 お前は前回の勝負に負けた筈だ。 二度と来るなと言われたのを、忘れたのかね」 私は一歩踏み出して、この若き弁護士にぐぃと詰め寄る。 この私の演技力で、果たしてあのペテン師が騙されるだろうかと疑いながら…。 「もうろくしたな、刑事のくせに!」 そう言うとギルバートは、私の身体を両手で押し返して、「俺はまだ負けちゃいないさ。“証拠”が出るまで、勝ちも負けもあったもんじゃない。 そう言ったのはあの男だ」と、祭壇の向こうを指差して叫んだ。 周囲の大騒ぎの中、私はペテン師の表情まで伺い知る余裕がなくて、仕方なく芝居を続けた。 「“証拠”なんぞ、いくら探したって見つかるわけがないじゃないか。 いい加減に自分が間違っていたと、認めたらどうなんだね!」
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