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そして、呼ばれた人物もまた、無言で私の隣を静かにすり抜けて行く。
再びその若者の名を口にしようとする私を、彼は「しっ」と言っていさめた。
“やめろ。せっかくの芝居を無駄にするつもりか”と、ギルバートの横顔が私に言った。
誰も止める者がなく、ギルバートはペテン師に言われた通り、祭壇の前へと歩を進めていく。
私は制止したかった。
とてつもなく嫌な予感がしていた。
ただギルバートだけが、この会場の中で、拍子抜けしてしまいそうな程に平然としている。
若者は、男の目に吸い寄せられるように祭壇の前まで行き着いた。
そして、毅然とした態度で、その向こうに立つ男を見据える。
何故こんな時に限って、誰も何も言わないのだろう。
静寂で耳が痛かった。
ペテン師が、祭壇の向こうから突如として中央通路に進み出た。
と同時に、会場が目を見張る。
普段の穏和な姿勢とは結びもつかない物を、男はその手に帯びていたのだ。
その右手に、美しい装飾の施された金の鞘が見て取れるではないか…あれは“短剣”である。
数々の蝋燭の炎が、その金色1つ1つに反射して、その姿は恐ろしい程に美しかった。
ペテン師は、若者の目の前で静かに剣を抜いた。その研ぎ澄まされ、神々しい程に光輝く剣身を、まるで何の感情も無いかの如く、男は若者に向ける。
誰もが息を呑んでいた。
声など出せもしない。
かつてない程に張り詰めた静寂の中で、ギルバートがまるで、それが何でもないことのように口を開いて言った。
「俺を殺すってか?」
「はい」と、ペテン師は答えた。
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