第6章の2

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2人のすぐ側に居た者の視界が紅く染まった。 鮮血が、剣を抜いた男へ、復讐をするかの如く勢いで襲いかかる。 ペテン師、エドワード・フェニックスは本当にやったのだ。 本当に、目の前に居た若者を刺した。 その腹を、その手に携えた短剣で、刺した。 本当に刺した……。 刺された若者は、低く呻いて後退した。 腹を押さえて、後ろに…。 「ギルバート!!!」 そこでようやく私は声を発した。 自分の耳すらもつんざくような、悲鳴にも似た声だった。 私は我を忘れて前方へ駆けた。 今にも倒れそうになっている若者の元に駆け寄った。 「ギルバート、しっかりしろ!ギルバート!!」 私の必死の叫びに、ようやく封印が解けたように、修道院の中は一瞬にして地獄のような悲鳴に包まれた。 私は後ろに倒れてくるギルバートの身体をなんとか支えた。 既にギルバートが身に付けていた物は、例外なくどれも血に染まっている。 ギルバートは、その口に手をやって、咳き込んだかと思うと、いきなり吐血した。 「ギルバート、しっかりしろ!しっかりするんだ!!」 私は周囲の喧騒に掻き消えないように、必死で若者の名前を呼んだ。 ギルバートの身体からは力が抜け、次第に重たくなっていく。 「誰かっ、誰かこの中に医者はいないのかー!!」 私は大パニックの中に向かって叫んだが、当然誰も答えよう筈がない。 若者の、血まみれの身体が痙攣のような動きを始めた。 私の片手では、もはや到底支えられなくなった。 ギルバートの身体が、地に沈んでいく。 次の瞬間、目を閉じた若者の身体から、完全に力が抜けてなくなるのを、私はこの腕に感じた。 「ギルバートッ!!!」 顔からは完全に血の気が引いていたのに、頭には完全に血が上っていた。 もはや無我夢中だった。 私はようやく、後ろに影のように立ち尽くす男を見た。 その片手に、今し方ギルバートの腹から抜き去ったばかりの、生々しく血の滴る短剣を握り締めたあの男を…。 「貴様ーーっ!!」 自分でもそれと分かる程の形相で、私は立ち上がってペテン師を睨みつけた。 男は身体に散々返り血を浴びているのに、表情ひとつ変えようとはしない。 そして私に目さえくれず、今し方自分の手で殺した男を見つめていた。
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