第6章の2

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目の前で起こったことが信じられなかった。 そんな…馬鹿な……。 聴衆と私は、全く同じ空間に居た。 今、我々の目の前で起こったことは“奇跡”でしかなかったのだ。 ギルバートは、何事も無かったかのように、おもむろに身体を起こした。 そして自分のすぐ側に、あのエドワード・フェニックスという男を捉えて、途端にその顔色を変えたのだ。 たった今、自分に起こった事態をようやく把握したのだろう。 この“生き返った若き弁護士”は、私の未だかつて見たことのない顔をしていた。 エドワードは、自分を真っ正面から見据えていた若者に向かって、いつかと寸分違わぬ穏やかさで、こう告げたのだった。 「ここへはもう、来ないで下さい」と。 会場内は、言い表し難い程の静けさに包まれ、そこにはまるで、神の力を持つ男以外、存在しないかのようだった。
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